メリーさん

動物との暮らし

11年12月24日 (土)

メリーさん

 子供には動物を飼わせるといいって、言ってたじゃない。今は、大人にも、老人にも言うようだけど。なんでもいいじゃない、飼えば。どうせ買うんでしょ。っと、トトトト。

 赤犬がおいしい。一番おいしいのはやっぱり赤犬だって、オヤジたちは言っていた。後で聞いた話だけど、朝鮮半島では犬を盛んに食べるんだってね。それが問題になっているって、なんでぇ? 

 メリーさんは、2番目の友達さ。1番目は、クロって言って、僕が拾ってきたまるまるとしたおチビさん。よく分からないままに、叔父さんが、その犬よりこっちの犬をもらってきたから、こっちにしな。メリーさんは短毛の赤犬さんだった。何故だかオヤジが熱心に世話していた。メリーさんの方がクロよりちょっと年上。クロが3才なら、メリーさんは小学生ってとこかな。

 メリーさんは確かに叔父さんが勧めたように、かしこかった。メリーさんて誰がつけたのか?バヤリース・オレンジのコマーシャルからかもしれない。チンパンジーが水玉模様のワンピースなんか着たりして、「メリーさん、メリーさん」ってやってたかもね。でも、僕たちは、メリー・ティラーから来てると思う。やっぱり、ロビンエンジンは凄いよねっ!そうかな?ララミー牧場って、そんな時からやっていたっけ。

 吠えないのよね。かといって、家人以外には気を許さないのよね。郵便屋さん、安べぇさん、保険屋さん、やってくる人、みんな褒めるのよね。吠えないよね。おとなしい、いい犬だねって。予防接種はたまにしていたが、鑑札は受けていなかった。

 でね、来るんですよ。先端から針金を引っ張った、細い棒を持った犬捕りが。まずいよ、絶対まずいよ。赤犬だろ、一番旨いんだろ。見つかったら、鑑札してないから、捕って喰われてしまうよ。こういう時、大人は冷淡だよね。仕事で家にいないんだよ。2、3日前から、犬捕りが近くの街をうろついている。聞いてたじゃないか。気のない返事で。ま、気をつけないかんわなって、具体策何もないじゃないか。いたるところで見かける偉い人たちの常套文句じゃないか。そう言っていて、チャイニーズシンドロームが起きちゃったじゃないか。

 で、来たんですよ。真昼の大人たちが仕事で、街中にいなくなった時間に。いるのは、子どもと働けなくなったお年寄りだけ。ひゃあ~。メリーさんはどうなるんでしょ。…。

 ねぇ、犬と猫って、仲が悪いって言う人もいるでしょ。トラネコと呼んでいた、猫も住んでいたんですよ。こっちの方が先輩だから。でね、これが、わざわざ、ネコの棲家なんて作らないでしょ。作ったって、気に入らなきゃ、目もくれないし。でも、犬って、棲家作るじゃない。でね、作ったら、ネコもその囲いの中が気に入っちゃって。よそんちは知らないけど、うちんちはネコなんて、あまり餌やらないでしょ。餌やらなくても、ネズミ食べるし、蛙食べるし、蛇だって食べちゃうし、魚だって見事なもんよ。だから、餌もね、結局、犬のものを一緒に食べることになるのよ。そうすると、ルームシェアはするし、ディナーシェアはするし、一緒に背中合わせで寝ていたりするし、これもメリーさんの特性?なかよきことはうつくしきかな。武者小路実篤。おめでたき人、今で言う内向性のストーカーの話。

 でも、メリーさん、かなしかった。初めての子が、死産だったんだ。よく分からない。大人は当てにならないし、もし、僕が獣医だったら、助けられたかもしれない。メリーさん、落ち着いた顔で、僕たちの目の前に赤ん坊を横たわらしているんだ。メリーさんのお腹から続く透明な膜に包まれていて、でも、メリーさん、僕たちを見上げるだけで、何もしないんだ。ヘソの尾を切らないと、って、僕たちは思いついたんだ。とにかく、裁ちばさみを持ってきて、はさみで切ったんだけど、…、結局、赤ん坊は息を吹き返すことはなくて、メリーさんは自分の傷口だけ嘗めて、何事もなく、終えたんだけど。

 よく分からない。それから、数か月経ってから、メリーさんは僕たち家族の前から姿を消してしまったんだ。いつも控えめなメリーさんだったから、メリーさんは何も言えずに行ってしまったのかも。

 メリーさんは座敷犬じゃないので、床の上にはあげない。あげたのは台風で床下浸水した時ぐらい。でも、今日は特別。一番奥の部屋がいい。と言っても、家人としては一番奥の部屋だが、後で考えると座敷の方が通りから離れていたから。とにかく、玄関からは一番遠い、一番奥の部屋。奥寝間にあげて、雨戸越しに、通りの動きに聞き耳たてた。チャラチャラと鎖のすれる音がする。少し動いては止まったりしている。

 啼くなよ。しっしっ。頭を少しなでながら、ジッとしていて。今、吠えたら、来るよ。すぐ、見つかっちゃうよ。そうそう、いい子だ。いい子だからね。そうそう。

 本当に賢いんだ。この犬は、落ち着いた目で僕を見上げながら、でも、一緒になって、外の音に聞き耳立てている。それからも、小1時間のよう、僕たちは奥寝間に身を潜めていた。その間も、メリーさんは騒ぐことは一切なかった。

  メリーさんが姿を消してから、1年ほど経ったある日、メリーさんの骨らしいものが、お寺の縁の下から見つかった。ご縁さんに頼んで、供養してもらったぞと、オヤジから聞かされた。メリーさんは本当に賢くて、べっぴんさんだった。でも、思い出すたびに、いつまでも悲しい。

2011年12月26日 (月)

メリーさん 続き

 その後、

 メリーの亡くなった、その年の冬、雪道で、茶と白の混じった雑種犬との、幻のような出会いがあった。

 その日の下校時、ま、ほとんどいつものように、一人だった。厚い雲に日の光は遮られていた。雪の降り方がだんだん激しくなって来た。風がないので、まるで、音がない。除雪車も来ない田舎だったので、人が通れる幅の掻き分け道しかない。もちろん車はない。人影も全くない。

 そんな雪道の中に突然、雑種犬(柴犬似の)が現れた。人なつっこそうな眼と顔つきで、なんか懐かしい。犬はそばまで来ると、歩調を合わせて僕の前を歩いていく。時々振り返りながら、少し離れると、戻って来たり、立ち止まったりして。家並みも途絶えた長い道のりだったが、いつもよりゆっくりと歩いていた。

 家に辿り着くまで、彼は僕をエスコートしてくれたんだ。たどり着くと、玄関まではついて来ず、軽く身をひるがえし、姿を隠してしまった。

 白日夢だったのかもしれない。でも、クロかもしれない。アガリトで天井を仰ぎながら、そう思えた。 クロはメリーさんの前に僕らが拾ってきた犬。まだちっちゃくて、まるまるとしていた。叔父さんが、どこかに連れて行って、その代わりにメリーさんがやって来たんだ。彼には不思議なことに、その後も一度も出会ったことがない。

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