ゆきちさん

ひとりごと

2012年1月15日 (日)

ゆきちさん 1

 もどかしいよね~。うまく伝わらない。その前に、自分が整理がつかない。でも、心の外に出したい。だから、思い切って、アッピールするって、そんなことかな。そのこと自体が、何か、ふっ切るきっかけになるかも。ふっ切れなくても、かえって、また何かを抱えることになっても、すこーし、立ち位置変えることは出来るかもね。で、また、動かなくなっても、見ようでは、それはそれで画期的かもしれない。カモネハウス。

 いつも、ぼんやりとイメージが見え隠れする。大事なことなんかもしれないし、なんでもない肌なでるそよ風に過ぎないのかもしれない。でも、何かにつけ、よみがえる幻影って、とこかな。ニシノカナ。

 そんなものの一つに、桜馬場(sakura banba)のいくつかの情景がある。一つがこれだぁAAAh。(ズームしてゆく感じの効果音、On)

 「何だよー。見せろよー」篠ちゃんは、へへっと、先を走る。順平くんが、追いかける。なんだか分からない太一くんと僕も、今まで話していた鉄人28号の話を放り投げて、「見せろよー」と言って追いかけ始める。

 「てっ、速いなー」篠ちゃんは速いんだ、とにかく。背も高いし、コンパス長いから仕方ないかー。上級生だしなー。

 上り坂はゆるやかだけど、こたえる。クソクソクソ、追いつくぞ。でも、全然ダメ。とっくの昔に、篠ちゃんはてっぺんに到着して、両手を空にかかげて小躍りしている。

 やっと追いついて、ハーハー言って、膝がしらに手をつっ立てて、ハーハーって、あらぶる息をおさめていて、ふと頭をあげると、遠くの竹垣の蔭からその人の姿があらわれる。

 ゆきちさんだー!

 ゆきちさんは、子どものころなんとかという熱病におかされて、なんとかマヒとかいう病気になって、片足が不自由なんだ。そう、母ちゃんから聞いていた。隣の隣の隣の集落の、山の方に暮らしている人なんだー。なりわいは荷車での運送。車輪はもうゴムタイヤになっていた。

 道はまだ舗装されていない。だから、ボンネットバスがやってくるのは、遠くに土煙があがるので、よく分かる。君らの文化と違って、土煙が見えてから、すっごーく、時間がかかるけどね。だって、スピード遅くて、全力で追いかければ、とびのれるくらいだもん。そんなデコボコ道をゆきちさんはヒッコリヒッコリと歩いてくる。たいがいは、朝方山で焼いた炭を町に運んで、午後には町で仕入れた雑貨を山麓の集落まで運ぶんだ。

 僕らが立っていたのは、桜馬場(sakura banba)って言って、かつて役所があった。桜の木が何本もあって、馬をとめていたに違いない。その前を通っている道は、馬場(banba)の端で天上川(tenjohgawa)の上にかかる橋になっている。そこが頂点で、のぼりくだりになっているんだ。だから、ゆきちさんは、ゆるやかな坂をヒッコリヒッコリと登ってくるんだ。

2012年1月15日 (日)

ゆきちさん 2

 僕らは、ゆきちさんとゆきちさんの飼っている、茶色のブチのある雑種犬コロを見つけた。ヤッター。ゆきちさんは上り坂をヒッコリヒッコリと登ってくるんだ。ヤッター。篠ちゃんが少し早かったかもしれない。でも、みんな同時だ。坂をかけおりて、かけおりて、かけおりて、ゆきちさんには目もくれず、通り過ぎて、それから、みんなでいっせいにUターン。意外性がポイントだ。僕らはパフォーマンスの天才だ。面白いことを、見逃がすことはない。

 いや、実際、その時は少なくとも僕は、いや、みんなそうだったんじゃないかな。足の不自由な人がなんぎ(難儀=nangi)しているんだよ。確かな気持ちじゃないけど、そう、川にヨチヨチ歩きの子が流されていた時もそうだったー。とにかく、何かしなきゃいけない気持ちになるんだー。恥ずかしい?そんなの何?そんなのどこからも湧いてこないsよ。すでに、体が動いてしまっているnjaよー。結果なんか考えていないよ。そうだろー、君らの文化は違うの?ナチュラルじゃないねー。

 ミナギル歓喜、僕らの働きドコロ、こんな面白いことってあるー。荷車に繋がれたコロも笑っているよーwan。

 ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ。篠ちゃんの声が大きい。いや、太一の方が張り切っている。僕はといえば、舞い上がっている。コロも喜んでいるwan。ゆきちさん、「いやあ、ぼくたち、ありがとねー。助かるよー」ゆきちさんが一番喜んでいる。

 だめだ。僕たちは若くて、血がたぎっている。とにかく、面白いことをせきとめることはできない。ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ。アリガト、アリガト。助カルヨ。ワッセ、ワッセ、助カルヨ。

 馬場を過ぎて、頂上に。ワッセ、ワッセ、ワッセ。アリガト、アリガト、助カルヨ。ピークを越えても、ワッセ、ワッセ。アリガト、アリガト、助カルヨ。

 下り始めても止まらない。少しずつ、速くなってゆく。篠ちゃん、見ても、目が輝いている。ワッセ、ワッセ。さすがのゆきちさん、人生の先輩。アリガト、アリガト、助カルヨ。まだ、お礼、言っている。

 どんどん速くなってゆく。アリガト、アリガト、助カルヨ。さすがのゆきちさん、お礼を絶対止めない。ワッセ、ワッセ、どんどん速くなってゆく。

 篠ちゃんが手を離した。僕らも荷車を解放した。もう、限界。へたばるよー。でも、荷車は止まらない。

 さすがのゆきちさん、ヒョヒョ、ヒョヒョと駆けて行く。コロも軽やかに駆けてゆくwan。野田のため池(tameike)の葦の原(ashinohara)に隠れる前に、振り返る余裕もないのに、ゆきちさんが、大きな声で、最後のお礼を言っている。

「ありがとうね、ぼくたちー。助かったよー!!」

 僕らは、大笑いをした。

 笑ってしまった、よ…。…ゆきちさん。

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